長年にわたってALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究に取り組んできた和泉先生。和泉先生を含む徳島大学の研究チームは、ビタミンB12の大量投与がALSの進行抑制を示すことを医師主導治験で確認しました。その皇冠比分网_皇冠体育投注-【长期稳定直播】に基づいて2024年9月、エーザイ株式会社が「ロゼバラミン®」(ALSの進行抑制を目的とした高用量のビタミンB12/メコバラミンの注射薬)として製造販売の承認をうけ、11月から発売開始、待望の社会実装が実現しました。
国内では3剤目、約9年ぶりとなる大学発のALS新薬は、大きなインパクトを与えました。
新薬開発に関わった和泉先生にお話を伺いました。
(取材/2024年11月)
---徳島大学では長年にわたりALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬の研究をされていますが、和泉先生が研究を始められてからどのくらいになりますでしょうか?
和泉先生 この教室ができた2001年からですね。前任の梶 龍兒教授は京都大学でALSの治療薬に関する研究をされていて、私自身は京都大学の同門ではないのですが、縁があって梶先生に声をかけてもらい、そこから研究に関わるようになりました。
---それまでは別の研究をされていたんですか?
和泉先生 そうですね。それまでは脊髄小脳変性症やパーキンソン病の遺伝子研究をしていました。今でこそALSの遺伝子もかなり注目されていますが、当時はそんなにメジャーではありませんでした。
---薬として世に出るまでに20年以上も時間がかかるんですね。
和泉先生 もともとは80年代の着想なので、40年ぐらいかかっていると思います。私は後半の20年ちょっと、関わっているということになります。
---薬の開発にあたり、突破口となる発見があったのでしょうか?
和泉先生 ALSという病気は難病中の難病とされていまして、ひと月ごとに???もっと進行が速い人は1週間ずつ、確実に悪くなるような病気です。ALSの治療薬は2剤あるのですが、薬を使っても良くなったという実感がほとんどない、つらい病気です。
2000年代の前半、梶先生のお声がけで「ビタミンB12を投与したら、どれだけ生存期間が延びるのか」という自主研究をしていた時期がありました。その時、「治療を続けたい」という人が非常に多かったので、「もしかしたら効くんじゃないかな?」という予感はありました。突破口といえるほど「難所を越えた!」というドラマはないんですが、ビタミンB12はドラッグストアで手に入るようなビタミンの一種。それでも100倍量という、とんでもない量を使ったら、まったく別物のように効果がある???。治療薬になり得るかもという可能性はなきにしもあらずだと、臨床を通じて実感しておりました。
---それがメコバラミンですか?
和泉先生 そうです。
---新しい治療薬ができたことで、ALSの進行を抑制する効果が期待できるということですね。
和泉先生 そうですね。
---抑制の範囲で、治るというわけではないんでしょうか?
和泉先生 まだ治るわけではないですね。更なる強い治療薬を作りたいという希望はありますが、既存薬に比べたら強力なものができたという自負はあります。
---新薬の開発によって、ALS研究において徳島大学が一歩リードしたということでしょうか?
和泉先生 徳島大学はALSの診療において非常に多くの患者数を診ていることを背景に、原因遺伝子の解明や新しい診断法の確立など、いろいろやっていますので、それなりに有名ではあるんですよ。その中でも大学発で薬を作るというのは最大級のインパクト。全国的にも、もっと言えば世界的にも知らしめたかなというのはありますね。
---学生の中にはこの研究をしたくて、研究室に入ってくる人もいますか?
↑和泉先生の部屋に飾られたルー?ゲーリックの写真。
ルー?ゲーリックはALSのため、38歳で亡くなったメジャーリーガーです。
和泉先生 そこまではないですね。ALSは有名ですが、メジャーではないんです。
医師を志す人は誰しも「病気を治したい」と思っているわけですが、ALSのような治らない病気を、研究によって治す方向に持っていこうというところまではイメージを持ってない学生さんの方がほとんどだと思います。病気が治って、笑顔で帰ってもらうというのが一般的なイメージですが、ALSの患者さんは例外なく亡くなってしまいますから。哲学的なことを言うと、どんな病気でもいずれは亡くなってしまうのですが、ALSの場合、発病してから亡くなるまでの期間が非常に短い。「治らない」というのは厳然たる事実ですが、もっと多くの人が関心を持って、治るよう、研究に携わりたいという気持ちを持っていただけたらなと思います。
---これまで蓄積した研究データもあり、ALSに関する研究に有利な環境があるわけですしね。
和泉先生 脳神経領域においてはこのALSが一番有名な難病ですが、各分野に難病といわれる病気はありますので、そういった病気に関する研究に関心を持ち、都会の研究施設が成し遂げなかったことを私どもが成し遂げたように、「徳島から新薬を開発する」という気持ちはぜひ持ってもらいたいですね。
↑研究室の廊下には新聞や雑誌などで取り上げられた記事がびっしり。研究の活発な活動を感じられます。
---徳島大学は外国人留学生の受け入れにも力をいれていますので、こうしたニュースをきっかけに海外から研究者が集まってくるといいですね。
和泉先生 期待しているところです。
---現在、研究室に所属している方たちは、他にどんな研究をされているのでしょうか?
和泉先生 そうですね、『日本人類遺伝学会』というのがあるのですが、本学の3年生の橘このかさんが学会の最優秀ポスター賞をとりまして。ジストニアという病気に対する遺伝子に関する研究で。
↑「日本人類遺伝学会」で最優秀ポスター賞をとった
医学部医学科3年(2024年当時)の橘このかさんと大会長の櫻井晃洋先生(札幌医科大学医学部遺伝医学)。
橘さんは「まさか受賞できるとは思っていなかった」と嬉しさより、驚きが大きかったそうです。
---学会でポスター発表されたんですか?
和泉先生 ポスター発表したのみならず、こういう学会は学生の参加も促していますから、「学生セッション」というのがあり、その中で「最優秀学生ポスター賞」をとるというのが定番ですが、一般の学会員、つまり普通の研究者の中で「最優秀ポスター賞」をとったんです。
---学生部門ではなく、普通の研究者と混ざって。それはすごいですね!
和泉先生 隣の遺伝情報医学分野の森野豊之教授は、広島大学の研修医時代の1年先輩ということもあり、縁が深いんですよ。ちょうど同じフロアで、いい共同研究ができています。2010年には2人が中心になりALSに関わる新しい遺伝子オプチニューリンを発見し皇冠比分网_皇冠体育投注-【长期稳定直播】を『Nature』に載せることもできました。橘さんが最優秀ポスター賞をとれたのも森野教授のご指導の賜物です。
---これまでの和泉先生の研究や繋がりが、学生さんに波及していくのは嬉しいことですね。
和泉先生 そうですね。やっぱり学生さんは無限に伸びしろがあるんですよ。無限に伸びしろがあるので、自分にリミッターをつけずに、素直に勉強していったら、社会人の研究者と遜色なく成果を発揮できる。「どうせ学生だし」みたいなことは思わずに、まっすぐ勉強していって欲しいですね。
---そういったお話を学生さんにもされるんですか?
和泉先生 私どものところに学生さんが来るのは、臨床実習で来られることが多いので、研究に特化した話はあまりしないですね。森野先生もそうですが、私の大阪時代(住友病院)の指導医で京都大学のiPS細胞研究所に井上治久教授っていう人がいるんですけど、この人とも30年ぐらい付き合いがありますが、彼は臨床医から研究者になったんです。モチベーションがあれば、医師から研究者になることもあれば、ほどよく両立するという方法もあるでしょう。学生というのはすごいチャンスの時期で、研究ばっかりすることだってできるんですよね。大学生の間は大きく学ぶという観点から遊ぶのもいいと思います。ですが、研究に大部分の時間をとることができるもの学生の特権。時間をどう使うかはその人の考え方次第です。
---研究に没頭できるのは学生の間だけと分かっていても、どうしても興味がよそに行ってしまうこともあると思いますが。
和泉先生 遊びたいでしょう、それは。遊ぶのは悪くないんですよ。私はね、2つ、大学へ行ってますから。1つは北大。北海道というのはいいところでね。良すぎて留年してしまったんですけど。それはもう徹底して遊んで???。遊んだといっても柔道ばっかりしていたんですが、後悔はないです。その反動で徳島大学に入ってからはかなり勉強しましたね。だから徳島時代の学生生活は勉強漬けの毎日。それはそれでまた良かったですね。ただ2つも大学に行っているからそんな贅沢なことができたわけで、1回の大学生活を遊んでかつ勉強してとなると、時間が足りないでしょう。じゃあ、どっちをするかというと研究も面白いんですよ。遊びを選ぶ人を否定はしませんが、ずっと遊んでいて知的好奇心が満たされるかっていったら、満たされないんじゃないかなと。知的好奇心はやっぱり無限大ですよ。そこが大事なんじゃないですかね。???といいつつ、私は柔道ばっかりやりまくってね、漫画になっているんですよ。これ、私(イラスト中央)。
---マンガになるほど柔道されていたんですか!?
和泉先生 『七帝柔道記』という小説がマンガ化されて。増田俊也君という私の柔道部の後輩が作者なんですが。インターネットで私の名前を入れたら、柔道の方が医師よりも上に出てくるかもしれない。
---柔道から研究へ興味が移ったのは、どうしてでしょうか?
和泉先生 それは柔道より面白かったということです。柔道は???結局、私のときは負けたんですけど、最終的には増田君ら後輩が連敗を脱出してくれたんですよ。私が柔道にかけた思いは後輩たちに繋がったと感じました。
私もまだ医師として現役なので「もっとやりたい」という気持ちはありますが、やはり時間に限りがあるんですよ、人生にはね。そういう中で後輩がちゃんと繋いでいってくれたら、嬉しいなと思いますね。柔道は思いを繋げた最初の体験。自分は達成できなくても、後に続く誰かが夢を叶えてくれる。より良い研究をしてもらい、より治療法を見いだしてもらうためにも、学生のみなさんにそのバトンを受け取ってもらいたいと願っています。
---臨床神経科学分野(脳神経内科)に興味がある人は思う存分研究が出来る環境があるわけですね。お話いただき、ありがとうございました。
★ALSの研究についてはこちらの動画もあわせてご覧下さい。
?『ALの治療薬開発の現状(和泉 唯信)【患者?市民セミナー ALSの治療薬開発を学ぶ】』
https://www.youtube.com/watch?v=cpBwoD-rV_0
?【徳島大学定例記者会見(皇冠比分网_皇冠体育投注-【长期稳定直播】7年1月28日)】筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬開発を加速!日本発の新たなALS治験ガイドライン策定が始動
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=TAjeuzHMuT4