最先端研究探訪

山村先生、高大連携の取り組みや「森林代謝学分野」発足のきっかけ

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2025年冬号の『とくトーク』で取材させていただいた山村先生は、スギに着目した研究以外にバイオマス資源の有効利用や希少な薬用植物に関する研究なども行っています。阿南光高校との高大連携の取り組みや「森林代謝学分野」発足のきっかけなど、本誌では紹介しきれなかったお話をまとめました!

(取材/2024年11月)

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バイオマス資源の有効利用についての研究も

 ---山村先生はどんな研究されているのでしょうか? 

山村先生 いろんな研究をしているのですが、2021年に徳島に来てからも新たな研究を始めています。
もともと僕は植物がどうやって成分を作っているのか、そこに関わる遺伝子やたんぱく質を見つけ出す研究をずっとやっていました。ほかにもバイオマス資源の有効利用において、どんな植物が今後重要であるかとか。すごく幅広くやっています。

 

---そういう研究を行うのが「森林代謝学分野」ということでしょうか?

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森林代謝学分野 サイト

山村先生 生物資源の研究室はもともと「○○分野」という呼び方がなくて。研究室名はA1~A9といったようにアルファベットと数字の組み合わせで表記していましたが、研究室のホームページを作るときに、「徳島大学A4研究室って書いても意味がわからないよね?」ということで、「森林代謝学分野」と名付けたのがきっかけです。

同じ研究室の服部 武文教授と私は京都大学大学院の農学研究科出身で、そこの「森林代謝機能化学分野」という研究室に一時期所属していました。服部先生は木材腐朽菌などのキノコを専門に研究されていて、僕は植物の代謝に関する研究をしていたので、「新野キャンパス(阿南市新野町)」の設置にあわせて、「森林○○」という学問分野があると解りやすいかなと。服部先生のご専門が森林微生物代謝学であることもあり、僕は樹木や草本植物を対象とした森林植物代謝学を専門としているので、研究室名は間をとって「森林代謝学でいいのでは?」と勝手に名付けたんです。

 

---皇冠比分网_皇冠体育投注-【长期稳定直播】「とくtalk」の方では徳島県産の杉について研究されているということでしたが、バイオマスは杉の間伐などを活用した木質チップなどの研究でしょうか?

山村先生 植物バイオマスの研究については、私がもともと研究していたのは樹木ではなく、毎年大量に手に入るイネ科の植物です。例えば大型のイネ科の植物であるススキやサトウキビとその近縁種とか。サトウキビの場合は砂糖を採った後のバガスという搾りカスで、このバガスの中にはセルロースなど「細胞壁多糖」と呼ばれるものがたくさん残っていて、そこから液体燃料(バイオエタノール)を作ることができるんです。でも植物の木質の性質には差があり、その差が液体燃料生産の効率に影響を与えるので、数多くの植物種の木質成分について基礎データを取っていました。

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世界的にはサトウキビ以外にもソルガム(南アフリカ原産のイネ科の穀物。コーリャン、モロコシとも呼ばれる)という大型のイネ科植物が注目されています。ソルガムの中でも、熱帯付近の気候を好む品種は1年間に3回も収穫することができ、年間で1haあたり合計約100tも収穫できるんです。対して樹木のスギだと年間10t未満といわれているので、桁違いにソルガムの収穫量が多いんですね。

ただイネ科の場合は樹木のように保存がきかなくて、傷んだり虫に食われたりするので、すぐ使わないといけない。ソルガムなど大型のイネ科植物は、CO2を吸いながら日本では春?秋の期間に数メートルまで大きく成長して、冬には地上部が枯死するんですが、例えばバイオエタノールや木質ペレットの原料として使うにしても、結局燃やせば大気中にCO2として戻っていくわけで、循環が結構早いんです。その点、樹木は大体40~50年ぐらいで伐採するので、その間はどんどんCO2を固定し続けるんです。伐採してすぐ燃やすわけではないので、例えば建築材としてうまく使えば100年はそのCO2を木材の中でキープでき、大気中に放出するのを遅らせることができるとか、そういうメリットもあるんです。

植物バイオマスといっても用途次第で植物を選ぶ必要があるんですよ。一時、地震災害などで原発エネルギーの利用を見直すような状況になって、代替のエネルギーをということでバイオマスが注目されたんですが、当時はその流れを受けてすごく研究していたんです。僕が研究していたのは、大きいものでは背丈が8mぐらいになるエリアンサスというサトウキビの祖先種とか、ソルガムを中心に分析していました。ソルガムは約500品種、約1500個体を2?3年かけて分析しました、もちろん一人でやっていたわけじゃないですけど今思うと大変な仕事ですよね。

 

---新野キャンパスがある阿南市はタケノコの産地ですが、竹はどうでしょう?

山村先生 竹の利用についてはキノコ栽培の菌床に使えないかというような取り組みを行なっていますね。 

菌床以外の利用方法についても少しだけ取り掛かっています。私たちの研究室は徳島県立阿南光高校の新野キャンパスの中にあるので、高大連携も兼ねて阿南光高校の生徒と一緒に竹から抽出した成分の中に抗菌活性を持つ成分があるかどうか実験をして調べてみたんです。この実験のきっかけは、森に入ると樹木にキノコが生えているのを見かけるのに、竹藪に立って生えている竹には直接キノコが生えていないなと思って不思議だったんです。実際に菌床に竹粉を使った場合にはキノコは生えるのに、なぜ立って生えている竹にはキノコが生えないのか。単に竹表面の構造的に生えにくいのかもしれないし、一方で、もしかしたら菌の嫌がるような成分が竹の表面にはあるんじゃないかと。

僕たちの分野ではどうしてもまずは成分から調べたくなるので、竹から抽出してきた成分を栄養寒天培地(微生物や細胞を培養するための固形培地)に練り込んで、そこに木材を腐朽する菌を置いてやるんです。竹由来の成分に何の効果もなければ放射方向に菌糸がバーっと伸びていくんですが、菌にとって嫌な成分があれば広がりが遅いんですね。高校生と一緒にいろんな抽出方法を試して、そのうちのある抽出方法で得た成分についてだけ菌糸が伸びるのが遅いものがあったんです。成分なのでいろいろな物質が入っていて何が作用しているかは分からないんですが、ある一定の効果が見られたので、竹が木材を腐朽する菌に対して効果がある成分を持っている可能性があるのではと。

今後研究を進めれば竹由来の防腐剤の開発にも繋がって、今まで切って捨てられていた竹でも一つの価値を見出せるんじゃないかと思いますね。

 

---一緒に研究する高校生はどういう生徒たちですか?

山村先生 阿南光高校の「バイテク?農業クラブ」とか「あこうバンブーミックス」という部活動に所属している生徒さんがメインです。それ以外でも興味のある人は参加できるので、日によって研究室に来る子は違います。基本的に阿南光高校の先生方は生徒たちにできるだけいろんな体験をさせてあげたいという熱意を持っている先生が多いんですよ。高校生のときにそういう経験ができれば、将来的に大学でこうした研究分野に進む子が出て来てくれれば良いなと思いながら一緒にやっています。

希少な薬用植物に由来する抗がん剤の原料を安定供給するための研究

山村先生 樹木以外にも薬用植物の研究をしていて、例えば抗がん剤の原料となる物質を生産する植物の研究もしています。抗がん剤は一からラボで有機合成して作られているわけではなくて、植物体内でほぼ形作られた物質を使って、最終的に少し人工的に手を加えて製造されていることが多いです。ラボでの有機合成でも作れなくはないんですが、経済的に成り立たないぐらいお金がかかるので植物から大体できあがったものをさっと抽出して、最後にちょっと反応させて形を変えて出荷という感じで。

でも人間っていう生き物は、抗がん剤の原料が採れるとわかるとその植物を一斉に乱獲したりして、今では絶滅危惧種になっていたりするんですよ。絶滅させるのはよくないので、その物質を安定的に供給できるような違うアプローチを考えなければならないということで、抗がん剤の原料物質の生合成に関わる遺伝子について世界的に研究がはじまり、最近になって大半の生合成遺伝子が一応見つかったんです。でもまだあとちょっとだけ見つかってない遺伝子があってまだ探しているんですが。面白いことに、なぜかスギにもその生合成に関わる遺伝子に似た塩基配列がゲノム上に存在していて、それも現在クローニングして遺伝子の機能を調べています。

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---抗がん剤に使われている植物とは何でしょうか?

山村先生 僕が研究しているのはセリ科のシャクという植物ですが、一般的にはメギ科のヒマラヤハッカクレンやアメリカハッカクレンが用いられています。これらのメギ科の植物から世界的に抗がん剤の原料物質がとられていますが、この植物は人工栽培が難しいとされていることもあり、実際は自生しているものから物質を抽出しているんです。でも根の部分でその物質を多く作るので、葉っぱとは違って、「根を取る=その株を殺す」ことになり、大量に収穫してしまうと絶滅に繋がりかねないんです。

現代の科学では、抗がん剤原料の生合成に関わる遺伝子を全て見つけることができれば、それら遺伝子を微生物に導入して、微生物の体内で生産させることができるんです。つまり、どこでも手に入るような安価な化合物を出発物質として微生物に餌として食べさせ、体内でどんどん複雑に作り変えて、最終的には抗がん剤の原料まで作り変えるということが原理的に可能なんですよ。最初の仕入れがすごく安価で、培養さえしていればどんどん変換して高価で希少な抗がん剤原料を作ってくれる、そうなれば理想的ですよね。とりあえずそれをするためには、関連する遺伝子を見つけるというのが重要になってくるんです。シャクに関しても現在では多くの関連遺伝子が見つけることに成功しています。

学生時代の卒論で味わった感動が、森林代謝学研究の原点

---先生がこの分野に進もうと思われたのは何がきっかけだったんですか?

山村先生 もともと僕は近畿大学出身なんですが、3回生で配属された研究室の教授が他大学の知り合いの先生のもとで卒論の研究をやってもいいシステムをとってくださって、僕の場合は京都大学の先生が受け入れてくださったんです。それが先ほど言った森林代謝機能化学研究室なんですが、そこでテーマとして取り組んだのが樹木心材の抗菌物質の生合成に関わる酵素が本当に存在するのかどうかを確かめる研究でした。

樹木といっても実際に使用したのはスギの培養細胞です。スギの培養細胞というのは、スギの赤ちゃんみたいな細胞なんですが、まだ根や葉などになるという運命を背負わされてない、ただ増殖するだけの細胞のことです。その細胞をすりつぶすと、スギ培養細胞内でつくられる様々な酵素が含まれた搾り汁を得ることができ、その搾り汁と物質を反応させるというシンプルな実験系だったんですが、運よく実験がうまくいって、実際に酵素反応によって目的の抗菌物質の生産が確認されたことから、スギにはその抗菌物質を作るための酵素や遺伝子が実在することが分かったんです。それが卒業論文になったんですが、その経験が心地よかったというか、快感を得てしまったところがあって、「研究って面白いな」と感じたのが最初ですかね。その時にぜひこの分野の研究をしてみたいと思い、今もやっています。

 

---そういう感動があるといいですね。

山村先生 研究はうまくいかないことがほとんどです。

 

---この分野の研究に向いているのはどういう人ですか?

山村先生 まずは植物に興味がある人。あとは物事に対して不思議に思ったり、「なんでかな?」ということをよく考えたりする人ですね。基本的に研究というとすごく難しいことをやっているというイメージですが、たしかに難しいことやっているところはあっても、基本的には「もしかしたらこうじゃないかな?」というのを確かめているだけなんですよ。そのときの手段やアプローチの仕方などがいろいろ違うだけで、いろんな条件を確かめて、それが正解かどうかというのを調べているだけなので。まず「何でなのかな?」と思える人が向いているんじゃないかなと思います。

 

---研究をする環境として新野キャンパスはいかがですか?

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山村先生 僕は京都出身でこれまでほとんど関西から出なかったので、もともと他のところにはあんまり行きたくないというのがあったんです。生まれてから徳島へはほぼ来たことがなく、常三島キャンパスへも辞令を受け取るために来たのが初めてでした。コロナ禍で移動制限があったこともあり、直前まで徳島には来れなかったんです。着任して第一日目、賑やかだった徳島市からどんどん遠ざかり、阿南市にある新野キャンパスにたどり着いたときは周りに何もなく、「これはえらいとこに来てしまった」と思いましたが、今は慣れましたね。少し遠いことを除けば、ここはここで、研究するにはすごくいい環境だなと思います。常三島の研究室と比べると新野キャンパスの研究室はスペース的に少し余裕があると思いますし、静かで研究に集中できます。

 

---これを機に阿南市新野町にも徳島大学のキャンパスがあることを、多くの人に知ってもらいたいですね。ありがとうございました。

 

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